ID:snmyatoの記録

終末を呼んだ、いつかのはなし

 此度の人類は大いに繁栄した。選び取ったその科学ちからで、神秘を遠く置き去りにして。
統一国家が誕生してからは、戦争というものはなくなった。小さな争いはあれど、多くの人命が失われるようなことはない。

 人間を頂点とした理想郷。けれど、それは長く続かなかった。……いや。違う。相応に長く続いたのだ。
約束された幸せを享受することが――彼ら彼女らにとって、かつてあった営みが忘れ去られる当たり前となる程度には。

 終わりの始まりは、ほんの僅かなひび割れから。整然とした豊かな管理社会に入り込んだ、悪意のひと欠片。
小さな小さなそれは、まるで病のように人々に広がっていく。自覚症状のないまま、静かに。
最初は何てことの無い軽口の応酬、だったかもしれない。しかし、それをどうしても許せない者が増えた。

傷つけられた。だから、これは――報復は正当な行いだ。

 罪を犯した者に、しかるべき罰を。正義が憎悪に塗り潰されるまで、然程時間はかからなかった。
脆く崩れる理想郷。響く怨嗟の声。争いが争いを呼び、どろりとした負の感情が世界を浸食していく。

 最早、国が国として機能していないような状況にあっても。
隣人はおろか、血の繋がりさえも。善意も、愛も。己以外も、己さえも、厭うようになっても。
膨れる悪意を御し、手を取り合い、生きる戦う者たちが居た。――でも、


「まさか、そんな…………全ては…………前提が……間違っていた、のか…………?」


 空に浮かぶ三つめの金色が、銀の微かな煌きと共に墜ちる・・・
黄昏と星空の狭間より降り注ぐ濃紫は、その勢いを強めながら。やがて、総てを飲み込んでいく。

人々の希望は心強き者だったがために。滅び最後の引き鉄を自らの手で、引いてしまった。