ID:chikuwatouの記録

🏝️くまなく思い出しては潮騒は恋しく

「……ねーねー、おにいちゃん!
 じっとしてどうしたの〜?先いくよ〜!」

「いかがしたのですか、猛獣の毛布をじっと見て」

「猛じゅ……クマ柄のブランケット見てただけだよ。
 そんな金持ちが持ってそうなもん欲しくないって……」

「いや……ちょっと思い出してたんだ。遭難した時のこと」

「……クマさんに会ったの?」

「それは……よくぞ帰ってきて……」

違う!山じゃなくて海で!無人島に流されたときのこと!」

「?」



「……あ〜っ!
 それっておにいちゃんがお出かけ中に
 いなくなっちゃったときのこと!?」

「数時間の迷子を経て、
 お兄ちゃんがクマ耳をつけて帰られた日のことですね。
 まさかファンシーショップに目移りしてたとは」

「それも違うって!俺はあの時本当に無人島にいて……
 ……クマ耳は、その、同じ島の人からもらったやつなんだよ」

「……や、まあ。信じてはくれないだろうけど。
 こっちでは本当にちょっとしか経ってなかったし……」


「……」

「……」


「事実かどうかは、まあ要審議のものですが」

「お兄ちゃんにとって、
 その出来事が印象に残っているのは間違いなさそうですね」

「あ、それはそうかも!
 おにいちゃん、その話をするとき、
 い〜っつも楽しそうだもん!」

「それに〜っ、今そのクマさんの毛布見てたときも、
 すご〜く優しい表情だったもんね!」

「……え、そんな顔してたか?」

「間違いなく」

「してたよ〜!」

「そ、そうか……」

「……」



「ごめん、まい、めい。ちょっとこれだけ買ってきてもいいか?」

「! それお家に持って帰るの〜!?
 やったった!そのクマさんかわいいからほしかったんだ!」

「おや、そんなに気に入ったのですか?」

「ん、まあ……趣味とはちょっと違うんだけどな」

「……やっぱり、ちょっと懐かしいなって思って。
 急に悪いな、少しだけ待ってて欲しいんだけど……」

「ええ、どうぞ。私達はお利口に暴れて待っておりますので」

「おりこうに、あばれてます!」

「それはどっちなんだよ……じゃなくて!
 すぐ戻るからじっとしてろよ!」