ID:884teikiの記録

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三年経っても、頭を撫でる手の感触を。
向けられる視線を。
柔らかい声を。
覚えている。

姉は昔からとてもあたしの事をかわいがっていた。
転んだら手を引いて、おやつを多く分け与えて。
あたしを無能力者だからといじめる近所の子どもからも守ってくれて。
自慢の姉だと小さなあたしは信じてた。作文にも書くくらい。鳥の雛みたいにあとを付いて回るくらい。

『大丈夫だよ、お姉ちゃんは分かってるよ。シュテファニエ』

かわいそうな子だからじゃなくて、たったひとりの妹だから。愛してくれているのだと信じてた。

――けれど、ある日あたしは気付いてしまった。

『良い子、良い子。かわいい子。
ずっとお姉ちゃんのこと、頼っていてね。シュテファニエ』

手も、目も、声も。
愛玩動物へ向けるものとずっと似通っていたことに。
お姉ちゃんは、ずっとか弱いあたしのままで居てほしかったことに。

結局、姉から見たあたしだって、かわいそうな子だった。

「……トライアみたいなヤツがお姉ちゃんだったら……馬鹿みたいな事考えるのやめよ。ありえないし」