ID:884teikiの記録

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一番陽キャが好む雰囲気とかけ離れてて、静かそうだったから。
あたしはヴィクセンクラフトへ入ることを選んだ。

思った通り馬鹿騒ぎなんかにはならないけど、静かすぎるでもなく、真面目すぎる訳でもなく。
なんというか、ラノベの世界へ飛び込んだみたいに皆キャラが立ってて。

そんなだから。多分、好奇心。好奇心が湧いちゃったんだと思う。本当に、軽い気持ちで。
あたしはいつからか戦闘以外でも周りへと目を向け始めた。


強いしキレたら絶対ヤバいヤツだけど。普段とんでもないくらいお人好し、押しに弱くて。下手したら過労死しそうで心配な、推定最年長のクラリティ。

ビビるくらい周り見てて、あたしたちの父親みたい――いや、おじいちゃんか? とにかくわりと面倒見良くて、言えばまとめ役だってやってくれる。そのくせ名誉学級委員って呼ぶたび否定してくる蒼。

いっつもほわほわしてて人当たりの良い、陰キャにも優しい陽キャ。生きて歩く緩衝材。でもたまに怖いくらい鋭いエイム力で的ぶち抜いてるミシェル。

いかにもミステリアス美少女って感じなのに、その顔はよく寝てるせいでちょっと見えにくい位置にありがちで。冬場や夏場なんか結構こっちの心臓に悪かったミエラ。

あたしが何か言っても効かないし、からかい返してくる。いちばん機体に性格が出てそう。絶対本人には言ってやらないけどヴィクセンクラフトのミステリアス美少女2号であるトライア。

バカで、デリカシーなくて、不器用で、DQNで、ゴリラで。全くもってこの寮に似合わない、ネツキ先生に詫びるべき。でも、まあ――卑怯さは評価に値する、リリアック。


ずっと、ずっと、見ていた。

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たったひとりの相棒を見上げる。
特に損傷の酷かった片方のブースターは、丸々ガラクタに埋もれてた物と替えた。

『Hameln』と刻まれたそれ。
パーツの名前か、それとも先輩かその機体自身の名前なのか――とにかく、どういう経緯があったかは知らないけど。
ラットに乗せるにはぴったりだと思って。

「あたしは、もうだめだけどさ。せめてあんただけでもカッコつけててよ、ラット。多分これがラストバトルってワケだし。ここに来て新パーツって燃えるじゃん?」



「……入学したばっかの時、あんたが降ってきて。正直びっくりしたけど。…………でも、ありがとね。あたしなんかのとこに来てくれて。あんたと居る時間、楽しかったよ」



「……あはは、どうしよう。ラットにしか言えないや……」




「いちばん楽しかったのに。皆の事、大好きなのに」