ID:884teikiの記録

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通信を終えて、外を見た。

「さよなら……ううん」


すっかり、あたしにとってはヴィクセンクラフトが帰る場所だったから。

「――行ってきます」



そう言い直して。
寮の方へと、手を振った。





外から大きな音がして。
出ていこうとすれば、鳴るインターホン。
モニターにはたったひとりの妹が映っていた。

「……よ。久しぶりじゃ〜ん? まあ、こっちの時間経過は知らないけど」

扉を開けて迎えた妹は。
知らないブレザーに身を包んで。知らない顔をして。
まるで、別人みたいに見えて。

「けじめは付けとこうと思ってさ? 別にそのまま出てけたんだけど、一回帰ってきたワケ」
「出てくって、どうして。学校で嫌なことでもあった? それならお姉ちゃんが――」
「全部嫌。学校も、家も、研究所も。息苦しい」
「シュテファニエ、何を言ってるの」
「……あんたよりずっと。まともに接してくれる年上の奴らと会った。あたしを都合の良いペットみたいに扱わない。隣に並ばせてくれる奴らと」
「ペットって、そんな。……おかしいよ。今日のシュテファニエは。ほら、温かい紅茶とお菓子、用意してあげる。だから」

落ち着いて話そう、と伸ばした手。
小さなあの子の手は、いつも握り返してくれたはずなのに。

「――さよなら、『ベアトリス』。あんたとはここで終わりだ」

どうして、手を取らないの。
どうして、そんな冷たい声で話すの。
どうして、こっちを見てくれないの。

どうして、お姉ちゃんと呼んでくれないの。

「シュテファニエ……!」




乱れた鎖は、何も捕らえない。
背を向けた姿が、私の前から去っていく。