「……あんた。もう除隊だ、除隊」

　同じ部隊の部下である男を後ろに庇いつつ、周囲に風壁を作り上げる。
爆音。衝撃。怒号。殺気――あーうるさい耳が痛い。本日も素敵で愉快でクソったれな戦争日和。

「やる気のないやつを置いとくほど、おれの部隊は余裕がない」

　魔導斥候隊。 " 最新 " の導具どうぐを持つことを許された、特殊部隊。
と、言えば聞こえはいいが。実態は運用が確立されていない導具の試運転と、そのデータの収集。
つまるところ、人柱だ。使い捨ててもいいような " ヒト " が、この部隊に送られてくる。

　――自分たちという、尊い犠牲でもって。
軍事国家『ミューグレイス』は、魔導先進国として周辺国の先を行っている。

「足手まといは要らない」

　鉄と火と血が降り注ぐ場所には、もう慣れた。
数多の戦地を駆けてなお生き残る、『幸運の白うさぎ』と呼ばれるくらいには。

「だから、乱戦に紛れて国から離れろ。その程度の時間なら稼いでやる」

神の恩寵など一切存在しない、あの国に帰るのは。己だけでいい。