ID:snmyatoの記録
断片01/02/03
-01-
それは、いつかの日のやり取り。
「お前さぁ……なんでそこまでして、この国に尽くすの?」
「別に愛国心なんてないし、尽くしてるつもりもないけど」
「だって、どう見ても……なあ?」
「ないない。結果、そう見えるだけだろ。それを言ったら、貴族なのに前線に出てるあんたのほうが余程、愛国心あるんじゃないか?」
「んなもんねぇよ。俺はただ、お前の作った『腕』を存分に使えるから戦場に行ってんだ」
「……壊れても直さないからな」
「一度は失ったモノが戻ってきたんだ。これ以上の幸運はねぇし、 " 次 " があるとは思っちゃいねえから安心しろ」
「そっか。ならいい」
「それよりも、だ。国を愛する気もないってんなら、さっさと出て行けよ。ここに居たって、お偉いさま方に使い潰されるだけだろ」
「なに? そんな心配してるのか? 顔と言動に似合わず、幼馴染殿はお優しいなー」
「オイコラ。俺は真面目に言ってるんだよ。……親父のことで留まってるってんなら、尚更だ。お前が気に病むことじゃねえ」
「…………。」
「俺も、親父も。フィーには十分助けられた。フィーが気にする借りなんて、とっくにゼロになってんだ。だから、」
「フィリクス。お前は外に行けよ。広い広い世界に出て、そんで好きなもんを作ればいい」
これは、国を出る前のやり取り。あいつとの最後の会話。だった。
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-02-
初めて触れた導具は、本の形をしたものだった。
息子のために作った絵本だと、魔工技師――魔導工学技師である彼の父親は語る。
本を開くと沢山の花が描かれていた。けれど、その花に色はない。
綺麗な絵なのに勿体ないと、その線を指でなぞったら。
触れた指先から鮮やかな色彩が溢れ、広がっていった。
無彩色の世界を瞬く間に染め上げる、魔導。
「あの子は気に入らなかったようだが……君は違うみたいだな。これが気に入ったのなら、君にあげよう。大切にしてくれると私も嬉しいよ」
食い入るように本を見つめていれば、優しい声が落ちた。
それは、夢の始まり。
自分がまだ " ヒト " だと思われていた頃の、話。
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-03-
「ごめんなさいね。あなたには苦労をかけてばかりで」
「ううん。おれはだいじょうぶ。みんなたいへんなの、しってるし」
深く被ったフードは、長い耳を隠すためのもの。
窮屈だけど、必要なもの。
「それにおれ、たいりょくはあるから。いんちょうをてつだうよ」
「ありがとう。でも、無理だけはしないでね」
しわしわの手。あたたかくて優しい、大好きな手。
ぎゅっと。己の手を宝物のように握ってくれるその手が、好きだった。
――けれど。
何度目かの冬を迎えた時に、院長は亡くなって。
「こんにちは、皆さん。新しく院長となりました――」
代わりに、新しいひとがやってきた。
このひとも、優しかった。……けれど。
「その耳……亜人……!? なんでそんなものが、この孤児院にいるの!?」
それは、自分がヒトで居られた時までで。
ヒトでなくなった自分は、孤児院を追い出された。
亜人は、この国では生きられない。
「……おや。丁度いい。 " それ " はこちらで預かりましょう」
でも、己は。
運良く戦場という、生きる場所を与えられた。
それは、いつかの日のやり取り。
「お前さぁ……なんでそこまでして、この国に尽くすの?」
「別に愛国心なんてないし、尽くしてるつもりもないけど」
「だって、どう見ても……なあ?」
「ないない。結果、そう見えるだけだろ。それを言ったら、貴族なのに前線に出てるあんたのほうが余程、愛国心あるんじゃないか?」
「んなもんねぇよ。俺はただ、お前の作った『腕』を存分に使えるから戦場に行ってんだ」
「……壊れても直さないからな」
「一度は失ったモノが戻ってきたんだ。これ以上の幸運はねぇし、 " 次 " があるとは思っちゃいねえから安心しろ」
「そっか。ならいい」
「それよりも、だ。国を愛する気もないってんなら、さっさと出て行けよ。ここに居たって、お偉いさま方に使い潰されるだけだろ」
「なに? そんな心配してるのか? 顔と言動に似合わず、幼馴染殿はお優しいなー」
「オイコラ。俺は真面目に言ってるんだよ。……親父のことで留まってるってんなら、尚更だ。お前が気に病むことじゃねえ」
「…………。」
「俺も、親父も。フィーには十分助けられた。フィーが気にする借りなんて、とっくにゼロになってんだ。だから、」
「フィリクス。お前は外に行けよ。広い広い世界に出て、そんで好きなもんを作ればいい」
これは、国を出る前のやり取り。あいつとの最後の会話。だった。
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-02-
初めて触れた導具は、本の形をしたものだった。
息子のために作った絵本だと、魔工技師――魔導工学技師である彼の父親は語る。
本を開くと沢山の花が描かれていた。けれど、その花に色はない。
綺麗な絵なのに勿体ないと、その線を指でなぞったら。
触れた指先から鮮やかな色彩が溢れ、広がっていった。
無彩色の世界を瞬く間に染め上げる、魔導。
「あの子は気に入らなかったようだが……君は違うみたいだな。これが気に入ったのなら、君にあげよう。大切にしてくれると私も嬉しいよ」
食い入るように本を見つめていれば、優しい声が落ちた。
それは、夢の始まり。
自分がまだ " ヒト " だと思われていた頃の、話。
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-03-
「ごめんなさいね。あなたには苦労をかけてばかりで」
「ううん。おれはだいじょうぶ。みんなたいへんなの、しってるし」
深く被ったフードは、長い耳を隠すためのもの。
窮屈だけど、必要なもの。
「それにおれ、たいりょくはあるから。いんちょうをてつだうよ」
「ありがとう。でも、無理だけはしないでね」
しわしわの手。あたたかくて優しい、大好きな手。
ぎゅっと。己の手を宝物のように握ってくれるその手が、好きだった。
――けれど。
何度目かの冬を迎えた時に、院長は亡くなって。
「こんにちは、皆さん。新しく院長となりました――」
代わりに、新しいひとがやってきた。
このひとも、優しかった。……けれど。
「その耳……亜人……!? なんでそんなものが、この孤児院にいるの!?」
それは、自分がヒトで居られた時までで。
ヒトでなくなった自分は、孤児院を追い出された。
亜人は、この国では生きられない。
「……おや。丁度いい。 " それ " はこちらで預かりましょう」
でも、己は。
運良く戦場という、生きる場所を与えられた。